養子の相続権

本日は相続に関する内容です。
養子縁組によって家族になった者と、元々の血縁者について、相続が発生した場合に何か違いはあるのでしょうか。

今回は養子の相続権について簡単に解説していきます。

養子は、普通養子と特別養子の2種類がある

そもそも「養子」とは血縁関係のない者同士や嫡出の親子関係がない者同士の間に法律上の親子関係を創り出す制度です。

その「養子」にも「普通養子」と「特別養子」の2種類があります。

1.「普通養子」はいわゆる一般的にイメージされる養子

普通養子は養親と養子が養子縁組届書を作成し、本籍地または所在地の市区町村役所に届けることで法律上の親子関係を創り出すものです。
養子が未成年者の場合などは、家庭裁判所の許可等も必要になります。

よく見られる事例としては、相続対策のために「孫を祖父母の養子とする」ケースや「息子の両親が息子の妻を養子とする」ケースなどがあります。

2.「特別養子」は子供の福祉の増進のための養子

特別養子は、恵まれない子供に家庭を与える目的で民法で特に定められた養子縁組の制度です。(民法第817条の2)
その目的から「普通養子」よりも縁組をする要件が厳しくなっています。
養子は原則として15歳未満、養親は少なくとも配偶者の一方は25歳以上(もう一方は20歳以上)で夫婦共同で縁組みしなければなりません。
縁組の成立のためには養親が養子を事前に6か月以上監護することが必要で、その監護状況を考慮したうえで家庭裁判所が審判によって、養子縁組を成立させるかを決定します。

「普通養子」も「特別養子」も養親とその親族の相続人となりうる

養子は、縁組の日から、養親の嫡出子たる身分を取得します。(民法第809条)
つまり、養親(及びその親族)の相続手続上では実子も養子も同じ立場になります。
「普通養子」も「特別養子」も考え方は同じです。

事例1)養親Aが死亡した。Aの家族は、妻B、実子C、養子Dだった。

⇒Aの法定相続人はB、C、Dの3名になる。
 (Aの実子と養子という違いはあるが、CもDもAの子という立場は同じ。)
⇒Aの財産についての法定相続分は妻Bが2分の1、実子C及び養子Dが各4分の1ずつになる。

事例2)養親Eとその妻は既に死亡している。2人の間には実子F及びG、養子Hがいる。
    実子Fが最近死亡した。(Fには配偶者、子供なし。生存している直系尊属もいない。)


⇒Fの法定相続人は、G及びHの2名になる。
 (Eの実子と養子という違いはあるが、GもHもFの兄弟姉妹という立場は同じ。)
⇒Fの財産についての法定相続分は実子G及び養子Hが各2分の1ずつになる。

「普通養子」と「特別養子」で実親とその親族との相続関係が異なる

養親及びその親族との相続手続上の関係が「普通養子」でも「特別養子」でも同じなのに対して、実親及びその親族との相続手続上の関係は「普通養子」と「特別養子」で異なります。

「普通養子」とその実父母や兄弟姉妹等との親族関係は、養子縁組後もそのまま存続します。

一方、「特別養子」の場合は、養子縁組がされると実父母及びその血族との親族関係は基本的に終了します。
(民法第817条の2)
(例外として片方の親が実親で、一方の親とだけ特別養子縁組をすることもできますが、その場合は実親との親族関係は終了しません。)

事例3)実親Iが死亡した。Iの家族は、妻J、実子K及びLだった。
    しかし、Lは、10年前に養親Mとその妻の養子となり、その後Iの家族とは会っていない。


〈Lが「普通養子」だった場合〉
⇒Iの法定相続人はJ、K、Lの3名になる。
 (Lは養子になっているが、Iの子として相続人になる。)
⇒Iの財産についての法定相続分は妻Jが2分の1、実子K及び養子Lが各4分の1ずつになる。

〈Lが「特別養子」だった場合〉
⇒Iの法定相続人はJ、Kの2名になる。
 (LはM夫婦の「特別養子」になったので、IとLの親族関係は終了している。)
⇒Iの財産についての法定相続分は妻Jが2分の1、実子Kが2分の1になる。

事例4)実親Nとその妻は既に死亡している。2人の間には実子O、P及びQがいた。
    しかし、Qは10年前に養親Rとその妻の養子となり、その後Nの家族とは会っていない。
    実子Oが最近死亡した。(Oには配偶者、子供なし。生存している直系尊属もいない。)


〈Qが「普通養子」だった場合〉
⇒Oの法定相続人はP、Qの2名になる。
 (Qは養子になっているが、Nの子であり、Oの兄弟姉妹として相続人になる。)
⇒Oの財産についての法定相続分は実子Pが2分の1、養子になったQが2分の1になる。

〈Qが「特別養子」だった場合〉
⇒Oの法定相続人は、Pのみになる。
 (QはR夫婦の「特別養子」になったので、実親Nや兄弟姉妹であるOとの親族関係は終了している。)
⇒Oの財産は全てPが相続する。


上記事例3、4のように「特別養子」は、実父母や兄弟姉妹の相続人とはなりません。
これは「特別養子」が子供の福祉のためのもので、養親子関係を強固なものにするためだと考えられます。
戸籍上でも、「普通養子」では、実父母の氏名の記載がされますが、「特別養子」では実父母の氏名の記載はされません。

※ 法定相続人が誰になるかは、以前のコラムでも解説しております。⇒こちらのページ

養子縁組前に生まれた子は代襲相続できない

被相続人の子が、被相続人の相続の開始以前に死亡等によってその相続権を失ったときに、その被相続人の子の子(被相続人から見ると孫)が相続人となるのが「代襲相続」です。(民法第887条第2項)

この代襲相続は被相続人の直系卑属(自分より後の世代で血筋が直通する子供や孫など)でない者はできないとされています。(民法第887条第2項ただし書)

養子は、縁組の日から養親の嫡出子たる身分を取得し、養親の子となりますが、養子縁組前に生まれた養子の子と養親は養子縁組後でも親族の関係にならないので代襲相続をすることはできません。
逆に養子縁組後に生まれた養子の子と養親は親族の関係になるので、代襲相続をすることができます。

上図のような事実関係において、被相続人(S)の相続関係を考えます。
(上図以外の(S)の配偶者や子供、兄弟姉妹、直系尊属はいないものとします。)

(S)の相続人として養子である(T)が考えられますが、(T)は(S)よりも先に死亡している(時系列④と⑤)ので相続人になれません。
そこで、(T)の子が(T)を代襲して(S)の相続人になることが考えられますが、(U)は、(T)と(S)の養子縁組前に出生しており(時系列①と②)、(V)は養子縁組後に出生しています。(時系列②と③)

養子縁組の日以前に出生した(U)は、被相続人(S)と親族関係にならないので、代襲相続人になることはできません。
養子縁組の日以後に出生した(V)は、被相続人(S)と親族関係になるので、代襲相続人になることができます。

よって、(S)の相続人は(V)のみとなります。

なお、「普通養子」か「特別養子」で違いがあるかという点については、「普通養子」の場合は上図のような事実関係が発生する可能性がありますが、「特別養子」の場合は、基本的に養子になれる者の年齢が15歳未満と定められているので、養子縁組前に養子に子供がいるという状況は実体上少ないと考えられます。

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