相続した不動産の登記は必要か
本日は相続及び不動産登記に関する内容です。
前回のコラムにおいて、「不動産に関する権利の取得、喪失、変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」(民法第177条)という「登記の対抗力」について解説しました。(前回のコラム⇒「不動産登記申請をしないとどうなるか」)
今回は、相続が発生した時に自分の権利を第三者に対抗するために必要な不動産登記申請について、具体的に解説していきます。
法定相続分を超える部分については登記等の対抗要件が必要
令和1年(2019年)7月1日に民法が改正され、共同相続における権利の承継の対抗要件として、民法第899条の2第1項の規定が新設されました。その内容を意訳すると下記のとおりです。
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条(第900条)及び第901条の規定により算定した相続分(民法で定められた法定相続分や代襲相続人の相続分)を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
つまり、相続財産が不動産の場合なら、遺産分割等で「民法で定められた本来の相続持分」を超える持分を取得した場合は、
「民法で定められた本来の相続持分」 の権利 | 相続登記が無くとも第三者に対して権利を主張することが できる |
「民法で定められた本来の相続持分」 を超える持分の権利 | 相続登記が無ければ第三者に対して権利を主張することが できない |
ということになります。
(「民法で定められた本来の相続持分(法定相続分)」については、こちらのコラムをご覧下さい。)
相続登記しなかった場合の具体的事例
1.遺産分割の場合
〔事例1〕
①(相続の発生)亡母Aが死亡した。Aの相続人は息子B、娘Cのみである。(法定相続分は2分の1ずつ)
②(遺産分割協議)相続財産の土地について、遺産分割協議を行った結果、娘Cが土地を全部相続した。
③(共同相続登記)息子Bは土地について勝手に法定相続分(BC各2分の1の共有名義)で登記をした。
④(BからXへ売買)息子Bは登記した自己の土地持分をXに売却した。
娘Cは遺産分割協議に基づき、土地全部を相続したことをXに対して主張できるか?
本来息子Bと娘Cの法定相続分は同じ各2分の1ずつでした。
遺産分割協議によって息子Bの持分は0になったにも関わらず、Bは本来の法定相続分で相続登記を行い、娘Cの持分になったはずの土地持分2分の1をXに売却しています。
最高裁の判例(昭和46年1月26日)で「不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については、民法第177条の適用があり、分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記をしなければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができない」としました。
つまり、娘Cは②の遺産分割協議に基づいた自分名義の登記があれば第三者であるXに対抗することができますが、④の売買によるBからXへの持分移転登記がされた場合は売買持分2分の1については対抗することができない(権利を主張できない)ということになります。※
これは、上述の民法第899条の2第1項にあてはめて考えても結論は同じになります。
※あくまで「登記の対抗力」のみに着目した結論になります。具体的な事情によっては、結論は変わることもあります。
ご注意下さい。
〔事例2〕
①(相続の発生)亡母Aが死亡した。Aの相続人は息子B、娘Cのみである。(法定相続分は2分の1ずつ)
②(共同相続登記)息子Bは土地について勝手に法定相続分(BC各2分の1の共有名義)で登記をした。
③(BからXへ売買)息子Bは登記した自己の土地持分をXに売却した。
④(遺産分割協議)相続財産の土地について、遺産分割協議を行った結果、娘Cが土地を全部相続した。
娘Cは遺産分割協議に基づき、土地全部を相続したことをXに対して主張できるか?
上記〔事例2〕は〔事例1〕とよく似ていますが、時系列が少し異なります。
〔事例1〕は遺産分割協議成立後に、BからXへの土地持分の売却が行われています。
〔事例2〕はBからXへの土地持分の売却が行われた後に、遺産分割協議が成立しています。
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生じますが、第三者の権利を害することはできないとされています。(民法第909条)
〔事例2〕にあてはめて考えると土地持分の売却の後に遺産分割協議が成立しても、その効力はさかのぼるので、相続開始時(時系列①)から娘Cが土地全部を相続した(成立した遺産分割協議内容)ということになり、BからXへの土地持分の売却は否定されてしまいます。
しかし、それでは第三者の権利(XがBから購入した土地持分の権利)を害することになるので、結局どちらが先に登記をしたかによって優劣を決めるとされています。
よって、娘Cは④の遺産分割協議に基づいた自分名義の登記を先にすれば第三者であるXに対抗することができますが、③の売買によるBからXへの持分移転登記がされた場合は売買持分2分の1については対抗することができない(権利を主張できない)ということになります。※
同様に〔事例2〕も、民法第899条の2第1項にあてはめて考えても結論は同じになります。
※あくまで「登記の対抗力」のみに着目した結論になります。具体的な事情によっては、結論は変わることもあります。
ご注意下さい。
2.「特定の財産を特定の相続人に相続させる」内容の遺言書の場合
〔事例3〕
①(相続の発生)亡夫Dが死亡した。Dの相続人は妻E、息子Fのみである。(法定相続分は2分の1ずつ)
②(遺言書確認)相続財産の土地について、「妻Eに相続させる」内容の遺言書があった。
③(共同相続登記)息子Fは土地について勝手に法定相続分(EF各2分の1の共有名義)で登記をした。
④(FからXへ売買)息子Fは登記した自己の土地持分をXに売却した。
妻Eは遺言書に基づき、土地全部を相続したことをXに対して主張できるか?
遺言書によって土地は妻Eが1人で相続するはずでした。
遺言書によって息子Fの持分は0になったにも関わらず、Fは本来の法定相続分(EF各持分2分の1)で相続登記を行い、妻Eの持分になったはずの土地持分をXに売却しています。
上述の民法第899条の2第1項は遺言の場合も適用され、息子FからXに売却された土地持分は妻Eが遺言書によって取得した「民法で定められた本来の相続持分」を超える持分の権利となります。
よって、これは登記が無ければ第三者に対して対抗することができない(権利を主張することができない)ものとなります。
つまり、妻Eは、②の遺言書に基づく自分名義の登記があれば第三者であるXに対抗することができますが、④の売買によるFからXへの持分移転登記がされた場合は売買持分2分の1については対抗することができない(権利を主張できない)ということになります。※
※あくまで「登記の対抗力」のみに着目した結論になります。具体的な事情によっては、結論は変わることもあります。
ご注意下さい。
(補足)
令和1年(2019年)7月1日の民法改正によって、民法第899条の2第1項の規定が新設される前は最高裁判例によって、妻Eは自分への相続登記がなくともXに対抗することができるとされていました。
民法改正によって結論は逆になったと言えます。
3.「相続分が指定された」内容の遺言書の場合
〔事例4〕
①(相続の発生)亡父Gが死亡した。Gの相続人は息子H及びIのみである。(法定相続分は2分の1ずつ)
②(遺言書確認)遺産につき、「Hの相続分が4分の3、Iの相続分が4分の1とする」内容の遺言書があった。
③(共同相続登記)息子Iは相続した土地について勝手に法定相続分(HI各2分の1の共有名義)で登記をした。
④(IからXへ売買)息子Iは登記した自己の土地持分をXに売却した。
息子Hは遺言書に基づき、土地持分4分の3を相続したことをXに対して主張できるか?
本来息子HとIの法定相続分は同じ各2分の1ずつでした。
それが、遺言書によってH持分が4分の3、I持分が4分の1と定められました。
つまり、Hは法定相続分より持分が4分の1増加し、逆にIは4分の1減少したということになります。
それでも、息子Iは本来の法定相続分で相続登記を行い、土地持分2分の1(遺言書で定められたI持分4分の1+遺言書でH持分となったはずの4分の1)をXに売却しています。
〔事例3〕と同様に上述の民法第899条の2第1項により、息子IからXに売却された土地持分2分の1の内、持分4分の1は息子Hが遺言書によって取得した「民法で定められた本来の相続持分」を超える持分の権利となります。よって、これは登記が無ければ第三者に対して対抗することができない(権利を主張することができない)ものとなります。
つまり、息子Hは②の遺言書に基づく自分名義の登記があれば第三者であるXに対抗することができますが、④の売買による息子IからXへの持分移転登記がされた場合は売買持分2分の1の内の、持分4分の1については対抗することができない(権利を主張できない)ということになります。
※あくまで「登記の対抗力」のみに着目した結論になります。具体的な事情によっては、結論は変わることもあります。
ご注意下さい。
(補足)
令和1年(2019年)7月1日の民法改正によって、民法第899条の2第1項の規定が新設される前は最高裁判例によって、息子Hは自分への相続登記がなくともXに対抗することができるとされていました。
民法改正によって結論は逆になったと言えます。
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