株式会社の取締役の任期の基本②~定款による任期の規定~
本日は商業登記の内容です。
前回に引き続き、取締役の任期についてです。(前回のコラムはこちら)
前回は、株式会社の取締役の任期は会社法による規制を受けるということを解説しました。
今回は、より具体的に取締役の任期がいつになるのか把握する方法を簡単に解説します。
会社法における株式会社の取締役の任期(前回の内容)
会社について定められた法律である会社法において、取締役の基本的な任期は要約すると以下のとおり定められています。(会社法第332条)
- (原則)取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
- 公開会社でない株式会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)において、定款によって任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することを妨げない。
- 監査等委員会設置会社の取締役(監査等委員以外)については選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。(定款又は株主総会の決議による任期の短縮可。)
- 監査等委員会設置会社の取締役(監査等委員)については選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。(定款又は株主総会の決議による任期の短縮不可。)
- 指名委員会等設置会社の取締役の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。(定款又は株主総会の決議による任期の短縮可。)
会社法を前提として定款において具体的な任期が定められる
株式会社の根本的な規則を定めたものを「定款」といいます。
全ての株式会社は、会社設立時にそれぞれの会社の「定款」を定め、それを基本として会社経営を進めていきます。
取締役の任期についても下記のように「定款」で定められていると思います。
〈定款記載例〉
第●条(取締役の任期)
取締役の任期は、選任後○年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。
上記の「選任後○年以内」について、会社法の規制を受けるということになります。
例えば、公開会社であれば選任後2年以内とされているので、「3年」には規定できないことになります。
しかし、非公開会社であれば選任後10年以内とされているので、「3年」でも可能となります。
取締役の任期の具体例
具体的に取締役の任期がいつになるのか事例を挙げて見ていきます。
(なお、今回は基本的な任期の考え方なので、補欠取締役や増員取締役の場合のように任期が短縮されるものは想定していません。)
〈事例1〉
(定款に定められた内容)
取締役の任期:選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで
事業年度:4月1日から翌年3月31日まで
①令和2年6月10日 | 取締役Aが定時株主総会で選任され、即日就任 |
②令和2年6月11日 | 取締役Aの任期の起算日 |
③令和3年3月31日 | 令和2年4月1日から始まる事業年度の末日 |
④令和3年6月8日 | ③に関する定時株主総会 |
⑤令和4年3月31日 | 令和3年4月1日から始まる事業年度の末日 |
⑥令和4年6月10日 | 起算日から2年(選任後2年) |
⑦令和4年6月17日 | ⑤に関する定時株主総会 ←終結時が取締役Aの任期満了時 |
上記のとおり②から⑥の期間が定款に定められた「選任後2年以内」になります。(民法第140条)
この間に終了している事業年度が③と⑤です。
よって、定款に定められた「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のもの」は⑤となります。
定時株主総会は通常年1回、事業年度の終了後に開催されます。
⑤に関する定時株主総会は⑦になります。
(③に関する定時株主総会は④ですが、最終の事業年度ではないので今回の任期計算では関係ありません。)
よって、取締役Aの任期は①令和2年6月10日~⑦令和4年6月17日となります。
〈事例2〉
(定款に定められた内容)
取締役の任期:選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで
事業年度:10月1日から翌年9月30日まで
①令和2年6月10日 | 取締役Bが臨時株主総会で選任され、即日就任 |
②令和2年6月11日 | 取締役Bの任期の起算日 |
③令和2年9月30日 | 令和1年10月1日から始まる事業年度の末日 |
④令和2年11月22日 | ③に関する定時株主総会 |
⑤令和3年9月30日 | 令和2年10月1日から始まる事業年度の末日 |
⑥令和3年11月25日 | ⑤に関する定時株主総会 ←終結時が取締役Bの任期満了時 |
⑦令和4年6月10日 | 起算日から2年(選任後2年) |
⑧令和4年9月30日 | 令和3年10月1日から始まる事業年度の末日 |
⑨令和4年11月10日 | ⑧に関する定時株主総会 |
〈事例2〉は〈事例1〉とは会社の事業年度だけが異なります。
上記のとおり②から⑦の期間が定款に定められた「選任後2年以内」になります。(民法第140条)
この間に終了している事業年度が③と⑤です。
よって、定款に定められた「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のもの」は⑤となります。
⑤に関する定時株主総会は⑥になります。
(③に関する定時株主総会は④ですが、最終の事業年度ではないので今回の任期計算では関係ありません。
⑧に関する定時株主総会は⑨ですが、選任後2年を過ぎているので今回の任期計算では関係ありません。)
よって、取締役Bの任期は①令和2年6月10日~⑥令和3年11月25日となります。
〈事例1〉と〈事例2〉のように選任された日付と会社の事業年度との関係によって、最終の事業年度の定時株主総会の日付も変わってくることになります。
また、定時株主総会を開催する日付も定款に定められていますが、通常は事業年度の末日から2~3ヶ月以内というように定められていることが多いので、実際の取締役の任期は選任された日からちょうど2年にならないこともあるので注意が必要です。
補欠取締役や増員取締役の任期に注意
また、定款には取締役の任期について、下記下線部のように定められていることもあります。
〈定款記載例2〉
第●条(取締役の任期)
取締役の任期は、選任後○年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。
ただし、任期満了前に退任した取締役の補欠として、又は増員により選任された取締役の任期は、前任者又は他の在任取締役の任期の残存期間と同一とする。
この規定により、辞任や死亡等で任期途中で退任した取締役の補欠として選任された取締役は、その退任した取締役(前任者)の任期を引き継ぐこととなります。(補欠取締役)
同様に、何らかの事情によって現在の取締役に加えて新たに選任された取締役は、他の取締役(在任取締役)が任期満了する時に合わせて一緒に任期が満了することになります。(増員取締役)
補欠取締役や増員取締役の取締役は通常の任期よりも短くなりますので、手続きに注意が必要です。
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取締役の登記は定款の事業年度の規定や任期の規定を読み解き、補欠取締役や増員取締役の把握も必要になることがあります。
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